乳腺疾患一般
乳腺疾患について
乳房には、乳がんをはじめとする様々な病気が発生します。
悪性疾患の代表は乳がんであり、乳がんは女性が最も罹患する可能性の高いがんです。
年々増加傾向にありますが、早期に発見して適切な治療を行えば再発させない可能性が高い病気ともいえます。そのため定期的な検診の継続と、日頃のセルフチェック、そして気になる症状が現れたときは、すぐに乳房を専門とする乳腺外科を受診する事が重要です。
乳房には乳がん以外にも乳腺炎や乳腺症、嚢胞、乳管内乳頭腫、線維腺腫、葉状腫瘍といった様々な病気があります。
「乳房や脇のしこり」、「乳房の皮膚の窪みや発赤」、「乳頭のただれや陥凹」、「乳頭からの分泌物(妊娠・授乳期以外)」などの自覚症状がある方、乳がん検診や人間ドックなどで要精検、要経過観察と診断された方、そのほか乳房で気になる事がある方は、お気軽にご相談ください。
よく見られる症状
- 乳房にしこりがある
- 腕を挙げたときに、乳房に「えくぼ」や「ひきつれ」がある
- わきの下にしこり(硬いリンパ筋)や腫れがある
- 乳房全体が赤く腫れたり、ほてりがあったりする
- 乳房の左右サイズが変化した
- 乳房に潰瘍ができて治らない
- 乳頭から分泌物が出る
- 乳頭にびらんやただれがある
日常的に起こりやすい症状でも、詳細な検査を行う事で重大な病気の早期発見につながる事もよくあります。心配な症状やお困りの事があれば、一人で悩まず何でもお気軽にご相談ください。
主な検査
乳房の基本検査
- マンモグラフィ(乳房X線検査)
- 乳腺超音波検査(エコー検査)
臨床症状や画像所見に応じて追加で施行される検査
- 穿刺吸引細胞診
- 組織生検(針生検、切開生検)
- 分泌物に対する捺印細胞診
- ステレオガイド下生検
術や治療のために追加で施行される検査
- 胸部造影CT検査
- 乳房造影MRI検査
乳がん検診
がん検診の目的はがんを発見する事ではなく、そのがんによる死亡率を下げる事にあります。よって、乳がん検診も乳がんによる死亡率の低下を目標としております。現在、乳がんの死亡率の低減効果をきちんと証明しているものは、実は40歳以上のマンモグラフィ検診しかありません。
超音波検診に関してはマンモグラフィ検診との併用検診において、早期乳がんの発見率には寄与しますが、死亡率の減少を示せるか否かはまだ結果が出ておりません。
また、超音波単独検診に関してはマンモグラフィ検診より有用である事を証明したデータは現時点では存在しません。なお、40歳未満の女性に対する乳がん検診の有用性に関しては、超音波、マンモグラフィ、両検査の併用のいずれにおいてもきちんとしたデータ(科学的根拠<エビデンス>)はありません。
お住いの自治体検診で超音波検診や併用検診が行われている地域もあると思いますが、厚生労働省が推奨している
乳がん検診は40歳以上の問診、視触診、マンモグラフィ検診だけというのが実情です(「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」)。期間も2年に1回を推奨しており、40歳未満の乳がん罹患者数が増加している事に対する危機感は認識しておりますが、自己検診と異常に気付いたら受診を推奨するにとどめており、具体的な検診方法は示しておりません。これは、先に示したように、エビデンスがある乳がん検診が40歳以上の女性に対するマンモグラフィ検診のみであるため、厚生労働省としてはこのような指針しか示せないのだと思われます。各自治体はこの指針に基づいて検診内容を決めており、そのままマンモグラフィだけとしている自治体もあれば、超音波検診も導入している自治体もあります。
まずは、ご自身がお住まいの自治体の乳がん検診の詳細をご確認する事をお勧めいたします。
乳腺炎
乳腺炎とは乳房の限局的または全体的な発赤、疼痛、熱感、浮腫状腫脹を認め、発熱や悪寒、全身の痛みを伴う疾患であります。乳腺炎には「急性」と「慢性」があり、急性乳腺炎の多くは出産直前や出産後、主に授乳期に発生する産褥性急性乳腺炎です。産褥性急性乳腺炎の原因の大半は乳汁のうっ滞と言われており、そこに細菌感染が加わると急性化膿性乳腺炎となります。
妊娠期・授乳期以外で乳腺炎を発症する場合は感染性乳腺炎である事が多く、治療方法は大きく異なります。
慢性乳腺炎は乳腺内の炎症が発症、消退、再燃を繰り返す形をとり、その代表が乳輪下膿瘍です。乳輪下膿瘍は乳輪下に存在する主乳管に角化物質が詰まって乳管を閉塞し拡張、破綻によって膿瘍や瘻孔を作る事で発症するとされています。頻回に繰り返す事が多く、手術等が必要になる事もあります。
また、乳腺炎との鑑別が必要な疾患に炎症性乳がんと呼ばれる悪性疾患もあります。
乳腺炎の治療
うっ滞性乳腺炎の原因はあくまで乳汁のうっ滞ですので、うっ滞している乳汁を排乳する事が最も症状の改善に寄与します。
赤ちゃんに飲ませる回数を増やしたり、間隔を短くしたり、飲ませる姿勢を工夫したり、赤ちゃんが飲まない場合は搾乳回数を増やしたり、マッサージを行う等の方法は患者さん自身でも可能な治療法です。
ただし、痛みを伴う事も多い乳腺炎で自己マッサージや搾乳は難しい事もあります。その場合は助産師さんによるマッサージや医師による鎮痛剤の投薬等を併用する事で速やかに改善が図れる事も多いです。
特に鎮痛剤は射乳反射を起こしやすくし、母乳中にはほとんど移行しない事が確認されています。
うっ滞がひどくならない早い段階で自己マッサージや搾乳等で改善が図れると痛みや発熱に悩まされずに済みますので、早い段階での対応が重要です。
うっ滞が生じ始めるとその部位の乳腺が硬く変化してきます。痛みが無いか軽度の段階で硬い乳腺を触れるようになったら、マッサージを試みたり、出産した産科の母乳外来や助産院で助産師さんに早めに相談をする事をお勧めします。
膿瘍を形成してしまうとマッサージでは排乳出来ませんので、皮膚を切開し排膿する必要が生じますので、膿瘍を形成する前に治療を開始する事を強くお勧めします。
乳腺炎の予防
赤ちゃんがしっかりと飲んでいるにも関わらず、乳房が張ってきた時は手や機器による搾乳を試みてください。また、温めたり、赤ちゃんの飲む角度や向きを変えてみたりしてください。疲労は乳腺炎の誘因になると言われており、十分な休息をとる事も大事です。ですので、ご家族の助けも必要となってきます。また、感染性の乳腺炎もありえますので、手指や機器の衛生管理も重要になってきます。
うっ滞性乳腺炎の治療は早い段階での評価と適切な処置が重要となり、基本的には患者さんと助産師さんとの間で改善してしまう事がほとんどです。
我々、医師が関与するのは、鎮痛剤等の薬物の投与や膿瘍形成をしていないかの超音波検査、膿瘍形成している際の切開排膿等が主であります。
また、稀にですが、妊娠期や授乳期に乳がんが見つかる事もありますので、その鑑別診断をつける事も我々の仕事です。助産師さんからでも、患者さんからでもご連絡頂ければ、可能な限り早急に対応したいと考えております。
赤ちゃんをあずけられない方は、そのまま赤ちゃんを連れて来て頂いても大丈夫です。ベビーカーを置くスペースも確保しておりますし、トイレにオムツ変え用シートもご用意しております。
男性の乳腺疾患
男性にも乳頭や乳輪があり、その下には女性と同じ乳腺組織が存在しています。(ただし、乳汁を分泌する小葉の形成は見られません)
ただし、女性の様に乳腺組織を刺激するホルモンの変動がありませんので、未成熟の状態のままで存在しております。
ですが、その未成熟な乳腺内でも病変が生じてくる事がありますので、男性でも乳腺外科を受診する事はありえます。
代表的な乳腺疾患には女性化乳房症があり、男性でも良性の線維腺腫や乳がんが発生する事はありますので、気になる症状を自覚しましたら、当院までご連絡ください。
女性化乳房症
男性によく生じる乳腺疾患に女性化乳房症というのがあります。
男性の乳腺組織は大半が乳輪直下にありますが、この乳腺組織が肥大した状態が女性化乳房症です。両側に生じる場合も片側のみに生じる場合もあります。エストロゲンやアンドロゲンなどのホルモンバランスの異常で生じると言われており、年齢的には10代後半と70代以降によく見受けられます。
ホルモンバランスの異常以外には肝硬変や慢性腎不全等の他疾患に随伴して発症する場合や利尿剤や心療内科系の薬、代謝異常症の薬等の副作用で発症する場合もあります。経過はゆっくりと進み、乳頭の痛みや張りを伴う事が多いですが、悪性化した報告はほとんどなく、ホルモンバランス異常の場合は自然消退する事が多いとされています。
ただし、半年くらいの長期に渡る事が多い印象で、なかには消退しないケースも見受けます。特に有効な治療薬はなく、経過観察となりますが、乳がんとの鑑別が必要となりますので、特に年齢の高い方は検査を受ける事をお勧めします。
男性乳がん
男性乳がんの発生頻度は1%以下とされており、非常に稀な疾患です。
年齢的には50-70代に多く、女性の乳がんより好発年齢は高齢と言われておりますが、男性乳がんの治療や予後に関しては女性の乳がんと同じとされています。
ただし、乳房の膨らみがなく、乳頭直下に生じてくる事が多いため、乳がんの診断がされた時には皮膚や乳頭への浸潤が認められ、ステージが3以上と高く判断されるケースが多いのも特徴です。一般にホルモン感受性の高い乳がんが多く、内分泌療法が奏効しますので、早期で診断がつけば予後は良好と考えて良いと思いますので、気になる症状がありましたら早めに当院までご連絡ください。
甲状腺疾患
甲状腺は頚部の真ん中あたりの皮膚のすぐ下にあり、食べ物に含まれるヨウ素を材料にして、甲状腺ホルモンを作って、血液中に分泌しています。
甲状腺ホルモンは多すぎても少なすぎても体調が悪くなってしまいます。甲状腺ホルモンが多すぎると「甲状腺機能亢進症」、少なすぎると「甲状腺機能低下症」といいます。
下記の症状がでている方は当クリニックにご相談ください。専門医をご紹介いたします。
血液中の甲状腺ホルモンが増えると次のような症状がでることがあります
- 胸がドキドキする
- 息切れがする
- 手がふるえる
- 体重が減る
- 汗がよく出る
- 微熱がある
- 眼が出ている
- 落ち着きがない
- 食欲が非常にある
- 下痢
- 月経不順
- 不妊症
血液中の甲状腺ホルモンが不足していると次のような症状がでることがあります
- 寒がり
- 息切れがする
- 手がふるえる
- 体重が増える
- 汗がよく出る
- 微熱がある
- 眼が出ている
- やる気がでない
- 便秘
- 月経不順
- 不妊症